ニューヨークの高級住宅やホテル、ビルの売買を仲介する大手不動産会社、コーコラン・グループの日本人女性セールスウーマン、鈴木かつ子さん(81)は、現在、同社の副社長。このほど、ビジネス社から『I can do it! 60歳なんて怖くない』を出版した。生き馬の目を抜くマンハッタンの不動産ビジネス。81歳で現役バリバリのビジネスウーマンとして活躍するその秘訣は何か—。
同書によると、鈴木さんは熊本県八代市出身。20代で東京に出て、昼は服飾デザイン学校で学び、夜は立川市の米軍近くのバーで働き、稼ぎを資本にして米軍兵士用の賃貸住宅を建てた。29歳で米国人と結婚後来米したが離婚、ニューヨークで日本人男性と再婚して洋装店を経営、これも暴動で店が壊されたりと決して平坦な人生の道のりではなかった。その逆境のたびに彼女を支えたのは「I can do it,私はできる」という自信だった。
立川での不動産の経験を生かそうと学校に通って不動産取引きの免許を取って米国で不動産の世界に入ったのはなんと60歳を過ぎてから。面接日に、路上で売っていたインディオの毛布を衝動買いしてから「あ、しまったこれから面接だった」と気がつき、毛布を抱えてコーコラン・グループの当時あったマジソン街640番地のビルを訪ね、エレベーターに乗った。背の高い白人女性から「18階?それなら私もよ。あなたより大きいから私が持ってあげるわ」と毛布を抱えてくれた。受け付けで事情を話すと「彼女は社長のバーバラ・コーコランです」。その時、この会社で何がなんでも働きたいと思ったという。面接で「英語を十分話せない、書けないのにどうやって働くつもり?」と聞かれ「大丈夫、アイ・キャン・ドゥー・イット。私を見ていてください」と八代なまりの英語で大きな声で答えたのを覚えている。
バブル期に自宅を抵当に入れてまで投資しようとする客には「今は買うべきではない」とアドバイス。その真情溢れる仕事ぶりがバブル崩壊後に鈴木さんをトップセールスに押し上げた。自宅の部屋には、バーバラ・コーコランからもらった大きな青いリボンが2つ、赤いリボンが2つ、黄色いリボンが7つ飾ってある。青はひと月の売り上げ社内ナンバーワン、赤は10棟以上、青は100万ドル以上の売り上げの表彰状なのだ。鈴木さんにとっては「一生の誉れ」。「ガッツと人からの感謝の気持ちを忘れず。私はね、根っからの肥後の女なんですよ」マジソン街の路上で、熱く優しい笑顔を見せた。 (三)
カリフォルニア大学のロースクールに通う日系人女性ジャッキー・イシダは、祖父フランク・サカイが亡くなり、遺言書に書かれた「カーティス・マーティンデイル」という人物を捜し始める。サカイは欧州戦線で負傷を負った日系二世で、戦前日系コミュニティーがアフリカ系コミュニティーと共存していたころからロサンゼルスのクレンショー地区で食料雑貨店を営なんでいた。遺書には、その店をカーティスに遺すと残されていた。カーティスの消息を追っていくと、彼は、遺書が書かれた翌年、1965年8月に起こったアフリカ系米国人による「ワッツ暴動」のさなかに、祖父の店の冷蔵庫に閉じ込められて命を落とした黒人少年4人の1人であったことが明らかになる。
著者のニーナ・ルヴォワルさん=写真=は、日本人の母とポーランド系米国人の父のもと東京で生まれ、5歳で来米。イエール大学に入学するまでほぼ大半ロサンゼルスで育った。そのためか処女作『The Necessary Hunger』、先月出版されたばかりの『The Age of Dreaming』を含みすべてが人種のアイデンティティーとそれを取り巻く社会の歴史を巡る内容のミステリー小説となっている。来米当初、短期間暮らしたウィスコンシン州の小さな町は、白人以外の人種は会ったことのない人ばかりの土地で、時には差別的な扱いを受けることもあった。ロサンゼルスに移ると、様々な人種、ありとあらゆる民族から生まれた混血の友だちに囲まれ、初めて疎外感から解放された。これらの経験から米国内の人種関係について関心を持つようになったと言う。
同書を書くきっかけになったのは、1996年クレンショー地区のボウリング場「ホリデーボウル」の喫茶店を訪れたときのことだった。客層は黒人と日系の老人たち、皆が和気あいあいと午前の時を過ごしていた。南部の郷土料理「ジャンバラヤ」と「ソースやきそば」が一緒にメニューにのぼるこの場所は、きっと天国に違いないと思った、とニーナさんは言う。この土地を小説の舞台にしようと調べていくと、昔からLAの黒人社会の中心だったこの地域は、実はそれ以前から日系人が多く住んでおり、両者はお互い身内のように暮らしてきていたことがわかった。日系人たちが強制収容所に入れられている間彼らの留守宅を守ったのは黒人の隣人たちだった。公民権運動の際、黒人側についたのは日系人の仲間たちだった。
ミステリー小説としての読みがいも十分だが、人種と文化の違いを越え、友愛と助け合いの精神が今も受け継がれている実在の社会の歴史から、移民、または在米日本人として学ぶことは多い。日系人としての苦労を負いながらも地域住民に慕われるサカイの人望をはじめ、惹かれる人物描写からは、異文化社会で養われた著者の感受性が伝わってくる。原書『Southland』はロサンゼルス・タイム紙のベストセラーに選ばれたほか、数々の賞を受賞。 (都)